熱力学的極限でフラストレーションを持つ完全結合系の連想記憶モデルが, カオス状態を持つかという問題に対して,これまで明確な結論は得られていない. 非単調ネットワークでは,カオス的な状態遷移があると報告されている[1,2]. しかしながら,これらの知見が数値シミュレーション上の有限サイズ効果による ものか,単に数値計算上の問題であるのかはわかっていない.これらの問いに答 えるために,過渡現象までも含めた厳密解を用いた解析が必要である.そこで, 本研究では非単調系列想起モデルの想起過程においてカオス状態が存在するかを, 経路積分法による厳密解を用いて議論する.
カオス状態であるかどうかはリアプノフ指数を求めればよい.リアプノフ指 数を求める際には,各時刻の状態を求める必要がある.そのため,想起過程の厳 密解が必要である.これまでに,我々は経路積分法を用いて単調系列想起モデル の想起過程の厳密解を求めている[3].本理論は非単調出力関数 $F(u)=\sgn(u)-\sgn(u-\theta)-\sgn(u+\theta)$を持つモデルに容易に拡張でき る.ここで,$\theta$は非単調性を表すパラメータである.ここでは,絶対零度 の場合を議論し,巨視的状態方程式を求めると,
(式)
となる.巨視的状態方程式より,$\theta=1.2$のときの想起過程を求めると,カオス的 な振舞いを示す場合が存在した.また,さまざまな記憶率 $\alpha$について,リ アプノフ指数を求めた結果を右図に示す.これより,リアプノフ指数が正となり, カオス状態が存在することを確認した.