D\"uringらは経路積分的な手法を用いて,系列想起型連想記憶モデルを議論した. この理論ではオーバラップ m(t)とクロストークノイズの時間相関 R(s,s'), 状態の時間相関 C(s,s'),帯磁率 G(s,s')のオーダパラメータで想起ダイナミ クスを記述する.ここで,R(s,s')は C(s,s')とG(s,s')に依存するため,一 般的に陽に解くことは困難である.彼らは鞍点方程式を導出し,定常状態の解析を 行ったが,過渡的な想起のダイナミクスを議論するまでには至らなかった.
連想記憶モデルを解析する場合には,記憶パターンが想起できるかどうかを議論す る必要があり,想起ダイナミクスの解析が必要不可欠である.我々は系列想起モデ ルに対して時間相関 R(s,s'),(s,s'<t)に関する漸化式,
を導出することに成功した.この漸化式によって各時刻における巨視的状態方程式 を求めることができ,想起に失敗する場合を含む過渡的な想起過程全ての場合に適 用可能な厳密解を求めることができた. 驚くべきことにクロストークノイズをガウス近似した統計神経力学による巨視的状 態方程式は,系列想起モデルの場合にはこの厳密解と一致している.すなわち,系 列想起モデルでは非想起状態においてもクロストークノイズが厳密にガウス分布に 従っていることがわかる.これらの理論は非単調素子を用いた系列想起モデルにも 容易に拡張できる. 図1にβ=5の場合の転移点(α_c=0.246)前後の記憶率における計算機シ ミュレーションと理論の結果を示す.図からスピングラス相でも,理論はシミュレー ション結果を良く説明していることがわかる.